3Dプリンター模型の技工料金、いくらが妥当?歯科医院とのリアルな交渉体験談
皆さん、こんにちは。
今日のお話は、少し面白い体験、私にとっては「気づき」があった出来事についてです。
具体的には、歯科医院(得意先)の先生と技工料金の交渉をした際の話なのですが、その中で具体的な技工料金の数字もセキララにお伝えしていきたいと思います。何かしらの参考になれば幸いです。
交渉のテーマ:ナイトガード用3Dプリンター模型の料金
交渉のテーマとなったのは「ナイトガード」の製作に関連する料金です。
以前からナイトガードに関する動画をいくつか投稿していますが、今回はその本体料金ではなく、製作に使用する3Dプリンターで作製した模型の料金についてです。
最近、私のラボでは3Dプリンターを導入しました。これにより、診療室でIOS(口腔内スキャナー)を使って取得したデータを元に、ラボで3Dプリンター模型を作製できるようになりました。
つまり、従来のように石膏模型を送ってもらう必要がなく、データだけ送ってもらえれば模型が作製できるシステムが構築できたのです。
この3Dプリンター模型上でナイトガードを作製するわけですが、その模型代をいくらに設定するかが今回の交渉のポイントでした。
ちなみに、3Dプリンターで直接ナイトガード(透明なレジン製)を作ることも可能ですが、現状では模型上で従来通りの方法で作製する方が精度が高いと考えています。そのため、まずは模型を作製するという工程は必須となります。
3Dプリンター模型の料金、相場は?
この3Dプリンター模型の料金設定について、導入前から色々考えていました。正直なところ、相場がよく分かりませんでした。
以前、友人のラボ(カーラ社の3Dプリンターを使用)に模型作製を依頼した際は、(片顎)で6,000円ほどでした。物によっては5,000円くらいにもできるとのことだったので、最終的には5,000円前後でお願いしていたと思います。
「結構費用がかかるんだな」というのが当時の印象でした。皆さんはどう思われますか?5,000円というのは、なかなかのお値段ですよね。
また、別の機会に材料屋さん経由で模型作製について問い合わせたこともありましたが、そこでは明確な返答が得られませんでした(そのラボでは外注での模型作製経験がなかったようです)。
さらに、CADCAMインレー(保険適用)のセミナーに参加した際には、講師の方が「保険適用のCADCAMインレー製作には、適合確認のために3Dプリンター模型が必要」と話していました。模型レスでも作製は可能ですが、適合確認や微調整(コンタクトやバイト)ができないため、やはり模型はあった方が良いとのこと。
そのセミナーでは、模型代について「ほとんど取っていない、もしくは材料費(200円程度)のみ」という話でした。これはおそらく、インレー用の小さな模型(2歯〜3、4歯程度)だからこその価格設定でしょう。技術料は含まれていないようです。
ただ、その講師の方も「本当はもう少し料金をいただきたいが、保険点数の上限があるので仕方なく…」とおっしゃっていました。
このように、3Dプリンター模型の料金にはかなり幅があることが分かります。
私の希望価格と現実
さて、私が今回設定しようと考えた希望価格は、**上下顎合わせて5,000円(変額2,500円)**でした。
その根拠ですが、まず材料費(レジン液)片顎だけで1,000円ほどかかります(※これはあくまで材料費のみで、機械の減価償却費や電気代、技術料は含みません)。
これに加えて、造形後のアルコール洗浄や最終重合、設計(CAD作業)、機械の維持費、そして造形エラーのリスク(失敗率)などを考慮すると、最低でも変額あたり500円〜1,000円の技術料(人件費)は欲しいところです。
さらに、レジン液も余剰分が必要になる(キャスト時の余剰メタルと同様)ため、材料費も単純計算より多くかかります。
これらの要素を考えると、変額2,000円でも少し厳しいと感じました。そこで、ギリギリのラインとして**変額2,500円(上下で5,000円)**という希望価格を設定したのです。
ちなみに、以前聞いた話では、あるメーカー系ラボでは変額9,000円(上下18,000円!)、別の外注先では変額4,000円という例もありました。また、大阪府内での最低ライン(聞いた範囲)は変額2,000円(上下4,000円)とのこと。本当に様々です。
先生との交渉:保険診療の壁
先日、実際に得意先の先生とこの料金についてお話ししました。
(実は、導入後の1ヶ月間は無料キャンペーンとして、この3Dプリンター模型での製作を試していました。先生にとっても私にとっても初めての試みだったので、まずは適合などを確認してもらうためです。幸い、適合に関しては「問題ない」との評価をいただけました。)
適合に問題がないことは確認できたので、いよいよ料金の話です。
「希望価格は上下で5,000円です」とお伝えしたところ、先生は少し渋い感じでした。「うーん、5,000円か…」と。
先生の医院では、ナイトガードはほとんどが保険診療とのこと。
ナイトガード本体の技工料金(私の設定)は8,500円(税抜)です。これに模型代5,000円が加わると、合計13,500円(税抜
保険点数の上限(バイト調整なども含めて、おそらく15,000円〜17,000円程度と推測)を考えると、医院側の利益(5,000円程度は確保したいとのこと)を確保するのが難しく、「その価格だとちょっと無理だな」というお返事でした。
やはり保険診療がメインとなると、技工料金にもその枠内での調整が必要になります。当初は「自費診療の場合のみこの模型代をいただく形になるかな」と考えていました。
しかし先生からは、「うちのナイトガードはほとんどが保険だから、自費だけとなると(3Dプリンター模型での発注が)ほとんどなくなってしまう」とのお話が。これでは、せっかく適合も確認できたのに意味がありません。
そこで、「先生、ではいくらなら採用可能ですか?」と思い切って尋ねてみました。
すると、「変額で1,000円(上下で2,000円) なら…」というお答えでした。
合計で10,500円(本体8,500円 + 模型代2,000円)となり、これなら医院の利益も確保できるラインとのことでした。
料金交渉の妥協点と代替案
上下で2,000円となると、材料費だけでほぼ利益がなくなってしまいます。一瞬「これは無理かな」と思いましたが、いくつか代替案を考えました。
代替案1:ナイトガード本体の材料費削減
現在、ナイトガード本体にはエルコデント社の「エルコデュール」(2mm厚)という比較的高価なシート(1枚700円近く)を使用しています。これを、より安価な他社製品(例えば山八歯材など、1枚200円台)に変更すれば、材料費を大幅に削減できます。ただし、物性(耐久性など)や適合感が変わる可能性はあります。
代替案2:研磨工程の省略
最終工程で行っている研磨(艶出し)を省略するという案です。PETG素材(エルコデュールの主成分)の研磨は技術的に難しく、手間もかかります。どうせ口腔内で調整すれば艶はなくなるので、この工程を省けば技術料(500円程度)を削減できます。ただし、見た目の美しさは損なわれます。
これらの代替案を組み合わせれば、ナイトガード本体の料金を1,000円程度下げることが可能です。つまり、本体料金を7,500円に設定する。
そうすれば、模型代を上下で3,500円に設定しても、合計金額は11,000円となり、先生の希望(1万円ちょっと)に近づけることができます。
この内容を先生に提案しました。
明確な承諾はまだですが、「どうせ削るしな(研磨なしでも良いか)」という反応もあり、可能性はありそうです。
交渉から得た「気づき」と「面白さ」
さて、冒頭で「面白い体験」「気づきがあった」と述べましたが、それは何かというと、この一連の料金交渉自体を、私自身が「面白い」と感じているという発見でした。
もちろん、お金の面は非常に重要です。しかし、それ以上に、得意先の先生とこうして膝を突き合わせて話し合い、どうすればお互いにとって良い形になるか、どうすれば希望に添えるかを考え、アイデアを出し合って一緒に仕事を進めていく、というプロセスに面白さを感じている自分に気づいたのです。
こういうのって、一方通行では成り立ちませんよね。特に歯科技工のような、答えが一つではない、技術的な要素が絡む分野ではなおさらです。新しい技術(今回は3Dプリンター)を導入する際には、提供する側(ラボ)とされる側(歯科医院)が協力し、情報を共有しながら進めていく必要があると感じています。
「はい、お任せします」だけでは、結局うまくいかないことが多いのではないでしょうか。お互いが納得できる着地点を見つけるために、正直に意見を交換し、時には妥協点を探る。これが、結果的に良い関係性を築き、より良い仕事につながっていくのだと思います。
もちろん、相手との相性もあります。何を言っても聞く耳を持たない方もいれば、逆にこちらの提案を真摯に受け止めてくれる方もいます。幸い、今回の先生はこちらの話をしっかり聞いてくださる方でした。
最終的に、今回の交渉で私の希望通りの料金にはなりませんでしたが、こうして一緒に課題解決に取り組めたこと自体に、大きな価値があったと感じています。
まとめ(と、ちょっと宣伝)
今回は、3Dプリンター模型の技工料金に関する得意先との交渉について、具体的な数字も交えながらお話ししました。
料金設定は本当にケースバイケースで、相場というものが確立されていないのが現状です。だからこそ、こうした個別の交渉が重要になってきます。
そして、その交渉プロセスの中に、仕事の面白さや、相手との信頼関係構築のヒントが隠されているのかもしれません。
(※最後に少し宣伝です)
実は、こういった技工に関するクローズドな情報交換や相談ができる場として、Discord上にコミュニティ(サーバー)を立ち上げています。まだほとんど活動できていませんが…
もしご興味があれば、概要欄の招待リンクからご参加いただけると嬉しいです。そこでは、もっと突っ込んだ料金の話などもできるかと思います。