こんにちは。
最近、私の友人であり、歯科技工士の同期でもある知人が、独立して営んでいた事業をたたむことになったという話を聞きました。彼は一人で頑張っていましたが、今後は大手のラボ(歯科技工所)に再就職するとのこと。
この話を聞いて、歯科技工士として独立して働くことの難しさや、現在の業界の状況について改めて考えさせられましたので、少しお話ししたいと思います。
独立の厳しさ:仕事の確保と収入の不安定さ
歯科技工士として独立すると、まず直面するのが仕事の確保です。私たちの仕事は、基本的に「作って納品して初めて収入になる」ものです。そのため、コンスタントに仕事が集まらなければ、すぐに生活が成り立たなくなってしまいます。
もちろん、独立すれば皆、一生懸命営業活動をします。しかし、思うように仕事が集まらないケースも少なくありません。仕事の獲得方法はいくつかあります。
- のれん分け: 以前勤めていた技工所から顧客を引き継ぐ形。
- 直接営業: 歯科医院などに自分の足で営業をかける(飛び込み営業など)。
- 紹介: 知人や既存の取引先から新しい顧客を紹介してもらう。
特に飛び込み営業はなかなか成果に結びつきにくいのが現実です(私も経験があります)。紹介が一番確実性が高いですが、常に紹介があるわけでもありません。
このように、仕事量には波があり、安定させるのは大変です。「作ってなんぼ」の世界なので、仕事がなければ収入はゼロ。この不安定さが、独立の厳しい側面の一つです。
成功の裏側? 人を雇う責任の重さ
逆に、仕事が順調に集まりすぎても、別の問題が出てきます。一人ではこなしきれなくなり、人を雇うことを考え始めます。
しかし、人を雇うということは、その人の生活を背負う責任が生じるということです。これは、技術的な仕事とは全く別のプレッシャーとなります。従業員の給料を払い続け、仕事を安定供給しなければなりません。
私自身、どちらかというと人付き合いやマネジメントがあまり得意ではないタイプなので、人を雇って組織を運営していくことには、また違った難しさを感じます。家族と過ごすよりも長い時間を職場で共に過ごすことになるわけですから、人間関係も含めて簡単なことではありません。
業界の変化:デジタル化と大手への集約
友人が再就職先に大手ラボを選んだ背景には、近年の業界の変化も関係していると感じています。
現在、歯科技工の世界ではデジタル化(CAD/CAMなど)が急速に進んでいます。これに対応するには高価な機材の導入が不可欠です。
- 設備投資: デジタル機器は数百万円、場合によってはそれ以上します。
- 維持費: 保守契約料やソフトウェアのアップデート費用もかかります。
- 陳腐化: 技術の進歩が早いため、数年で新しい機材に買い替える必要も出てきます。
- 冗長性: 機械が故障した場合に備え、複数台導入することも考えられます。
これらの投資や維持費を個人や小規模な技工所で賄うのは、相当な負担です。結果として、資金力のある大手のラボに仕事や人材が集約されていく傾向が強まっています。小さな事業所が淘汰され、大きな企業に吸収されていく流れは、今後も続くのかもしれません。
50代での再出発:まだ間に合う理由
友人は現在50歳。この年齢での再就職は一般的に難しいと思われがちですが、今の歯科技工士業界は深刻な人手不足にあります。特に経験のある技術者は引く手あまたな状況です。
そのため、50代であっても、むしろ即戦力として大手ラボに迎え入れられる可能性は十分にあります。(実際、私の知る中では60歳過ぎで再就職できた方もいます。)彼がこのタイミングで決断できたのも、そうした業界の状況があったからかもしれません。
決断は「敗北」ではない:自分に合った働き方を見つけること
独立事業をたたむというと、ネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、私は必ずしもそうではないと考えています。
独立には大きな魅力がありますが、同時に大きなリスクと責任も伴います。一方で、大きな組織に属することで、安定した環境で技術に集中できたり、チームで協力して大きなプロジェクトに取り組めたりするメリットもあります。
賑やかな環境やチームワークが好きな人にとっては、大きな会社の方が向いている場合もあるでしょう。向き不向きは人それぞれです。